【研究テーマ】
~慢性活動性EBウイルス感染症の発症機構の解明と治療法の開発~
【目的】
私たちの目的は「慢性活動性EBウイルス感染症」、略してCAEBV、という、
治療の難しい、まれで治療の難しい疾患に対し、
① 病気がおこる仕組みを明らかにする ② 有効な治療法を確立する ことです。
【CAEBVとは?】 ※AMED作成 CAEBV紹介動画 → こちらをクリック
CAEBVとはどんな病気なのでしょうか?
EBウイルス(正式な名前は、Epstein-Barrウイルス、といいます)が原因の病気です。
EBウイルスが白血球のひとつであるリンパ球、そのうちのT細胞あるいはNK細胞に感染し、
何らかの原因で感染した細胞がだんだん増えてしまうことによっておこると考えられています。
増えたT細胞、NK細胞は、やがて一部が腫瘍の性質を持つようになり、リンパ腫、白血病へと進行していきます。
もともとT細胞、NK細胞は、体に入ってくる様々な病原体に対し、サイトカインという物質
(発熱や炎症をおこす原因の一種のホルモンです)を出して、直接攻撃したり、マクロファージという免疫担当細胞を刺激して、
それらの病原体や感染した細胞を食べてもらったり(貪食、どんしょく、といいます)することで体を守ってくれる力強い細胞です。
そのためそれらの細胞が腫瘍になると、増えるだけでなく働きが強まり(つまり活性化し)発熱やだるさなど、
さまざまな炎症症状が出てくるのです。さらに、EBウイルスが感染した細胞は、それ自身はもちろんですが、
そればかりでなく、他のリンパ球のはたらきも強めて(これを活性化、といいます)しまいます。
そのため、強い炎症反応(感染症や膠原病の時のような発熱やリンパ節のはれ)がおこります。
つまりCAEBVは腫瘍としての性質と、炎症性疾患としての性質を持っていることが大きな特徴です。
なぜ、CAEBVの患者さんではEBウイルスがT細胞、NK細胞に感染しているのでしょうか。
そして、なぜがん化し、強い炎症を伴うようになるのでしょうか。その詳しいメカニズムはまだわかっていません。
病気を治すためにはEBウイルスに感染し、腫瘍の性質をもった、あるいは持ちつつある細胞を根絶やしにする必要があります。
そのために、リンパ腫同様に、複数の抗がん剤を組み合わせた化学療法を行います。
ところがこの病気は、抗がん剤が効きづらいことがわかってきました。
残念ながら、EBウイルスに感染した細胞を根絶やしにできるような化学療法は、実はまだ開発されていません。
現在、唯一の有効な治療は、造血幹細胞移植(いわゆる骨髄移植)のみです。が、移植を受けられる方は患者さんの一部です。
病気のしくみを明らかにし、薬による有効な治療法を作り出さなくてはなりません。
CAEBVは日本、中国、韓国など東アジアに患者が集中しています。欧米には患者はほとんど見られないといわれています。
日本の研究者、医師がこの問題を解決する必要があるのです。
【研究内容Ⅰ】
病気がおこる仕組みを明らかにする
日本医療研究開発機構難治性疾患実用化研究事業
「慢性活動性EBウイルス感染症とその類縁疾患に対する革新的治療薬を実現するための統合的研究体制の構築」
班員として研究を重ねております。これまでに疾患モデルマウスの作成、EBウイルスによるT、NK細胞不死化、
腫瘍化の分子メカニズムを明らかにしてまいりました。
2018年には、患者さんの試料を用いた解析により、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)でSTAT3が恒常的に
活性化していることをつきとめ、論文発表しました。Oncotarget. 2018; 9:31077-310
CAEBVの病態解明と新規治療法開発への応用が期待できます。詳しくはこちらをご覧ください。
また、本邦における成人例の病態の後方視的解析、造血幹細胞移植成績を論文発表しております。
以上は研究業績をご覧ください。
【研究内容Ⅱ】
CAEBVに対する治療法の開発
現在CAEBVに対し下記の臨床研究を行っております。
「Epstein-Barrウイルス陽性TおよびNK細胞リンパ増殖症 (慢性活動性Epstein-Barrウイルス感染症)
に対する ボルテゾミブの単剤療法の有効性に関する第2相試験」
また、CAEBVの全国治療実態調査を行っています。
現在行われている治療の成績を調べ、より有効な治療を明らかにするため
日本医療研究開発機構難治性疾患実用化研究事業
「慢性活動性EBウイルス感染症とその類縁疾患に対する革新的治療薬を実現するための統合的研究体制の構築」班で、
日本血液学会の支援をいただいて施行中です。
【その他の活動】
① CAEBVの診断基準、診療ガイドラインの作成
厚生労働科学研究 難治性疾患政策研究事業
「慢性活動性 EB ウイルス感染症とその類縁疾患の 診療ガイドライン作成と患者レジストリの構築」
班員として作成をいたしました。
② CAEBV患者会の支援
CAEBV患者会 SHAKE の活動を支援しています。
▼最後に
臨床現場、患者さんの状況は待ったなしです。一日も早く有効な治療法を確立するため努力を重ねてまいりますので、
ご支援をよろしくお願いいたします。